大切な家族のために。
- 2025年2月14日
- むこきただより
かつて、糖尿病の女性は「将来妊娠・出産は困難です」と医師から言われていた時代もありましたが、現代の回答は「妊娠・出産はできます」です。ただし、糖尿病の女性には妊娠の許容条件(表1)があり、妊娠後も厳格に血糖管理を行う必要があります。
(表1)糖尿病患者の妊娠の許容条件
血糖コントロール |
HbA1c 7%未満(理想は6.2%未満) |
糖尿病網膜症 |
合併なし (安定した良性網膜症なら可) |
糖尿病腎症 |
腎症1~2期まで |
妊娠中の糖代謝異常は、①妊娠糖尿病(GDM)、②妊娠中の明らかな糖尿病、③糖尿病合併妊娠に分類されます。このうち、妊娠前から糖尿病の診断がついているのは③の患者さんです。ただし①~③いずれの場合も、お母さんの合併症として「流産」、「早産」、「妊娠高血圧」や「帝王切開」の頻度上昇、赤ちゃんの合併症として「胎児機能不全」、「巨大児」、「低血糖症」などがあります。
こうした合併症を防いで元気な赤ちゃんを産むために、最も大切なことは血糖値の厳格な管理です。空腹時95mg/dL未満および食後1時間値140mg/dL未満、あるいは食後2時間値120mg/dL未満を目標とします。自宅で血糖自己測定(SMBG:self monitoring of blood glucose)を行い、毎日記録をつけて目標内でのコントロールを目指します。
基本的な1日3食の食生活で目標達成が難しいときは、食事を4~6回に分ける(分割食)、カーボカウントを導入するなど、適切な食事療法を用いて母児の血糖値を適正に管理し、高血糖にも低血糖にもならないように治療します。妊婦さんは赤ちゃんのためにも十分な栄養を摂る必要がありますので、炭水化物を抜くなど自己流の食事制限は厳禁です。当院では管理栄養士が妊娠週数、体格など患者さんの状態に合わせて、個別に最適な食事療法のプログラムを提供しています。
※厚生労働省では、「食事バランスガイド」を配布しています。以下のファイルをクリックして参照ください。
適切な食事療法を行っても血糖コントロールが不安定な場合、速やかにインスリン注射による治療を行います。インスリンは胎盤をほとんど通過できず、赤ちゃんに影響しないため安心して使用することができます。一方で経口糖尿病薬は赤ちゃんへの安全性が証明されていないため、妊娠中は使用できません。
妊娠糖尿病のお母さんから生まれた子供は、将来肥満や糖尿病を発症する頻度も高まることが知られています。また、妊娠糖尿病のお母さんは将来2型糖尿病を発症するリスクが高いため、お子さんとともに幼少時から食生活や運動習慣、睡眠など生活スタイルの安定が重要となります。
当院では、管理栄養士および保健師、糖尿病療養指導士の資格を持つ看護師がチームを作って妊婦さんの療養指導を行っております。
さらに、ご紹介いただいた産婦人科との連携、および入院して出産される際には入院先の糖尿病内科との連携も密に行っておりますので、安心してご相談ください。